先月、長年お付き合いのあるアパレル系のEC事業者の担当者と打ち合わせをしていたときのことだ。
「友だちの数は3万人を超えたのに、正直、売上にはあまり実感が持てなくて」
その一言に、僕は少し考え込んでしまった。
LINE公式アカウントの友だちを増やすことは、この数年ずっと僕らが一緒に取り組んできたテーマだったからだ。広告を回し、購入時にクーポンを出し、友だち追加のハードルを下げる。その結果として、数字は確かに積み上がっていた。
でも、担当者が見ていたのは「友だちの数」ではなく、その先にある「売上」だった。当たり前のことなのに、僕はどこかでその二つを混同していたのかもしれない。
「増やす」で止まっていた数年間
ちょうど同じ頃、LINE公式アカウントの「CRMオプション」という機能が、この夏から使いやすい形で本格化した、という話を耳にしていた。
フォーム機能で顧客の興味関心や悩みをアンケート形式で聞き取り、回答に応じて自動でタグを付ける。誕生日やタグの内容をきっかけに、あらかじめ決めておいたメッセージを自動で配信する「オートメーション」機能もある。性別や年齢といった基本属性だけでなく、アンケートの回答データをもとに、配信する相手をかなり細かく絞り込めるようになったらしい。料金も月額数千円程度からと、一般的にはそれほど大きな投資ではないようだ(申し込みには友だち数などの条件があるようなので、詳しくは公式の案内で確認するのが確実だと思う)。
正直、機能の説明だけを聞くと「便利そうだけど、うちには関係あるのかな」と感じる担当者も多い。僕自身、最初にこの話を聞いたときはそう思った。
ただ、さきほどのアパレルEC事業者の話に戻ると、彼らが本当に必要としていたのは、新しい配信機能そのものではなかった。
「3万人の友だちの中の、誰が、何に困っていて、何を求めているのか」を知る手がかりだったのだと思う。
30秒のアンケートから始めてみた
そこで、まずはごく簡単なアンケートを一つだけ配信してみることにした。「普段よく選ぶサイズ」「今気になっていること」といった、答えるのに30秒もかからないような質問だ。
回答してくれたのは友だち全体のごく一部だったけれど、そこで得られたタグをもとに、狙いを絞った案内を送ってみたところ、これまでの一斉配信よりも反応が良かった、という声を担当者からもらった。
まだ始めて数週間の話なので、これが一時的な反応なのか、継続的な効果なのかは、もう少し時間をかけて見ていく必要があると思っている。
「送りすぎ」で離れていく
同じような話は、他の業種のクライアントとの間でもよく出てくる。
化粧品の通販をしている事業者からは、「配信を送るたびに、なんとなく友だちが減っている気がする」という相談を受けたこともある。話を聞いてみると、全員に同じ内容を、同じ頻度で送り続けていたケースが多い。
興味のない情報を繰り返し受け取れば、そのアカウントから離れたくなる。自分に置き換えてみればよく分かる。
セグメント配信は、こうした「送りすぎ」による離脱を防ぐという意味でも、地味だけれど効いてくる部分だと感じている。
機能を入れれば伸びる、という話ではない
もちろん、機能を導入しさえすれば数字が伸びる、という単純な話ではない。
アンケートの設計一つで回答率は大きく変わるし、集めたデータをどう配信に反映させるかという運用の設計がなければ、せっかくの仕組みも宝の持ち腐れになってしまう。
うちの会社でクライアントと一緒にCRM周りを設計するときも、まず最初に聞くのは「今、顧客についてどんなことを知っていて、何を知りたいのか」という、機能とは関係のないところからの問いかけだったりする。
データを預かる、ということ
もうひとつ、担当者との会話の中で印象に残っているやり取りがある。
「データを集めるのはいいけど、個人情報を預かる分、管理はちゃんとしないといけないですよね」
これも当たり前のことだけれど、便利な機能の話をしていると、つい後回しにしてしまいがちな視点だと思う。
顧客データをどこまで集め、誰がアクセスできるようにし、どう使うのかを事前にすり合わせておくこと。効果を追いかける話の裏側に、こうした地味な合意形成があってはじめて、CRMという仕組みは安心して育てていけるものになる。
結局は「相手をどれだけ覚えていられるか」
この一連のやり取りを通じて、あらためて感じたことがある。
友だちの数を増やすことは、あくまで「出会いの数」を増やしているに過ぎない。そこから先、一人ひとりの状況に合わせて言葉を選べるかどうかが、結局のところ売上につながっていくのだと思う。
CRMという言葉を使うと急に難しく聞こえるけれど、突き詰めれば「相手のことをどれだけ覚えていられるか」という、すごく人間くさい話なのかもしれない。
うちの会社でも、LINEやメールを含めたCRM周りの相談は、ここ最近増えている実感がある。ただ、どの事業者にも共通して伝えているのは、便利な機能を導入すること自体がゴールではない、ということだ。
まずは小さく一つ質問を投げてみる。その回答に、少しだけ丁寧に応える。地味なことの積み重ねが、結局は一番効くのだと、今回もまた教えてもらった気がする。
「友だちは増えているのに、売れない」という担当者の言葉は、批判のようでいて、実は次の一手のヒントをくれる言葉だった。
数字の裏側にいる一人ひとりの顔を、僕らはどれだけ想像できているだろうか。そんなことを考えながら、僕は次の打ち合わせに向かっている。




